3月13日の「国際睡眠デー」にあわせて、一般社団法人 日本睡眠協会(JSLEEP)が主催する「春の睡眠の日」特別セミナーにベスリクリニックスタッフが参加しました。

今回は、日本睡眠学会理事長であり久留米大学理事長・学長の内村直尚先生による講演をはじめ、睡眠医療の最前線に関する大変貴重なお話を伺うことができました。ぜひ知っていただきたい内容が多くありましたので、ポイントをまとめてご報告いたします。
■ 日本は世界有数の「睡眠不足大国」
日本は世界的に見ても睡眠時間が非常に短い国のひとつです。そして、5人に1人が何らかの睡眠の悩みを抱えているといわれています。
「少し眠いだけ」と軽く考えがちですが、睡眠の問題を放置すると、認知症のリスク上昇との関連や、前立腺がん・乳がんの発症率増加にも関わることが研究で指摘されています。また、発達障害のある方には睡眠の問題が併存しやすいことも知られています。睡眠の問題は、心身のさまざまな疾患に影響を及ぼす重大な健康課題なのです。
■ 子どもも、お母さんも、高齢者も ―― すべての世代に関わる睡眠
2023年度に全面リニューアルされた母子手帳には、保護者の睡眠状況を記録する欄が新たに設けられました。1歳・1歳半健診でも、子どもだけでなく大人の睡眠が意識されるようになっています。
産後の女性はうつや自殺のリスクが高まりやすく、また少子化が進む中で子どもの自殺が増加している現状は非常に深刻です。子どもの健やかな成長にとっても、家族の睡眠は欠かせない土台といえます。
高齢者の睡眠にも注意が必要です。講演では、実際に眠っているかどうかにかかわらず、床(ベッド)の上で過ごす時間が長すぎると死亡リスクが高まることが紹介されました。久山町研究では、1日の睡眠時間が8時間以上の高齢者は認知症や死亡のリスクが上昇するという結果が報告されています。
また、1時間以上の昼寝は認知症の発症リスクを約2倍に高める一方で、30分以内の短い昼寝はむしろ認知症リスクを低減させるという研究もあります。「たくさん寝ればいい」というわけではなく、睡眠の質と適切な時間が大切です。
成人の目安としては、6時間以上の睡眠を確保すること(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)、そして「ぐっすり眠れて、体も心もすっきりした」と感じられる「睡眠休養感」が得られているかどうかがひとつの指標になります。
■ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基準が変わる
SASが問題となる理由は大きく3つあります。 ① 生命予後への影響(心血管リスクなど) ② 精神科疾患との関連(うつ病、認知症) ③ 認知機能障害(産業事故・交通事故の原因に)
こうした背景から、健康診断にもSASに関する内容を組み込む必要性が議論されています。
また、現状ではSASの診療は内科や耳鼻科のいびき外来が中心で、精神科・心療内科ではあまり対応されていません。しかし、うつ病や認知症との関連を考えると、精神科・心療内科でもSASへの対応を進めていくことが求められています。
■ 女性の更年期と睡眠
女性の睡眠についても注目すべきデータが紹介されました。更年期の不眠は閉経前と比べて大幅に増加するとのことです。そして、睡眠が不調になるとうつ病が併存しやすくなります。更年期の不調を「年齢のせい」と片付けず、睡眠の問題として適切に対応することが重要です。
■ 2025年「骨太の方針」にも睡眠が明記
2025年度の経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)において、運送業におけるSAS対策や、睡眠障害の医療アクセス向上の必要性が明記されました。国の政策レベルでも、睡眠の問題が重要課題として位置づけられています。
産業医にとっても睡眠の知識は不可欠です。睡眠不足はプレゼンティズム(出勤しているが生産性が低下した状態)を高め、生活習慣病やうつ病・適応障害などの要因となり、休職の原因にもつながります。働き方改革の推進、交代勤務の見直し、SAS・うつ病の早期診断と治療は、健康管理や労働安全に直結します。
■ 不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)の広がり
欧米では以前から、不眠症の第一選択は認知行動療法(CBT-I)とされてきました。世界中の診療ガイドラインで、薬物療法よりも効果が高く持続性があるとして推奨されています。
一方、日本ではまず薬物療法から始めるケースが一般的でした。しかし、講演では対面での不眠症に対する認知行動療法が保険診療の枠組みで実施しやすくなる方向であることが紹介されました。2026年度の診療報酬改定では、認知行動療法の対象疾患拡大や新たな評価の仕組みが設けられています。
認知行動療法は、薬に頼りすぎない治療を可能にし、薬を減らしやすくなるというメリットもあります。大量の薬を長期間使い続けなくてもよい選択肢が広がることは、患者さまにとって大きな前進です。
■ 「睡眠障害」が診療科名として標榜可能に ―― 何が変わるのか
今回の講演で最も注目されたのが、「睡眠障害」が医療法上の標榜可能な診療科名に追加される方針が了承されたという話題です。2026年3月6日の厚労省専門部会で正式に了承され、夏ごろまでに施行される見通しです。今後、「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」といった表記が可能になります。
現在、睡眠障害の診療は実質的に内科と精神科の先生方が担っており、中でも約半数は精神科・心療内科で診療されています。ただ、「不眠で悩んでいるけれど、どこを受診すればいいかわからない」という声はこれまで非常に多くありました。
標榜が実現すれば、「ここに受診していいんだ」という安心感が生まれ、医療アクセスが向上します。早期の診断・治療につながりやすくなることは、患者さまにとって大きなメリットです。
一方で、標榜できるようになるからこそ、診療の質がいっそう問われることになります。睡眠薬の処方(睡眠の「量」)だけでなく、睡眠衛生指導(睡眠の「質」)やSASを含めた包括的な不眠へのアプローチができるかどうかが、これからの睡眠医療の鍵となります。
■ 「眠育(みんいく)」― 子どものころからの睡眠教育を
日本では、医学部の医学教育コアカリキュラムにすら睡眠教育が入っていないのが現状です。つまり、医師であっても睡眠について十分に学ぶ機会がないまま診療にあたっているケースがあります。だからこそ、睡眠をきちんと診療できる医療機関を選んで受診することが大切です。
さらに今後は、食育のように「眠育(みんいく)」として小学校・中学校から睡眠教育を行う取り組みが進められていきます。子どものうちから正しい睡眠の知識を身につけることが、将来の健康を守る第一歩になります。
■ ベスリクリニックからのメッセージ
今回のセミナーを通じて、睡眠医療が大きな転換点を迎えていることを改めて実感しました。
当クリニックでは、不眠症に対する認知行動療法をはじめ、睡眠の「量」だけでなく「質」を重視した診療を行っております。眠れない、日中の眠気がつらい、薬を減らしたいなど、睡眠に関するお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
ベスリクリニック
【セミナー概要】
【講演1】「睡眠障害の標榜(ひょうぼう)」について
講師:内村 直尚 先生(久留米大学 理事長・学長/日本睡眠学会 理事長/日本睡眠協会 理事長) 日本における睡眠医療の第一人者である内村先生より、睡眠障害の標榜をめぐる最新の動向や、今後どのように制度が変わっていく可能性があるのかについて、わかりやすくご講演いただきました。
【講演2】「睡眠障害標榜が実現した場合の影響について」
講師:宮原 禎 氏(日本睡眠協会 事務局長/株式会社ACCELStars 代表取締役CEO) もし睡眠障害の標榜が実現した場合、医療現場や患者さんにどのような変化があるのかについて、実務的な視点からお話しいただきました。