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社会不安障害とは
人から注目を集める場面、たとえばスピーチ、発表、プレゼンのときなどの際、強い緊張や不安、恐怖を感じる病気のことです。対人恐怖症や赤面恐怖症、あがり症と言われていた症状もこの病気に含まれます。
人前で何かするときや目上の人、良く知らない人などと会うときなどに緊張したり不安になったりするのはたいていは誰にとってもあるものです。
ところが、その不安、恐怖、緊張が耐えられないくらいの苦痛になり、日常生活や仕事や学校などの社会生活を送るにも支障が出るほどになるのが社会不安障害です。
社会不安障害の症状とは
心理面では自分が話すことや表情、視線などによって、他人から批判や悪い評価をされるのではないか、変だと思われるのではないか、恥ずかしい思いをするのではないかという心配でいっぱいになったり、頭が真っ白になって何もしゃべれなくなったりするなどの症状が現れます。
人によっては自分の体臭や口臭が他人を不快にしているのではないかという不安を持たれる方もいらっしゃいます。
身体面では顔が真っ赤になる、手が震える、心臓がどきどきする(動悸)、息が苦しくなる、声が震える、冷や汗が出る、胃腸の不快感などの症状が現れます。
その結果、字が書けなくなってしまったり、発表を進められなくなってしまうなどを経験される方も多いです。
恥をかくことや失敗することへの恐怖や不安が大きくなる→身体症状があらわれる→うまくいかない→さらに恐怖や不安が大きくなるという悪循環によって症状が増幅していくことが多く、その結果、また症状が出るのではという不安【予期不安】も強くなり、最終的には同じ場面や状況が怖くなって避けるようになってしまうこと【回避行動】によって、生活の自由度が下がっていきます。
社会不安障害の原因とは
人前で恥をかいたり、大失敗をしたりしたなどの体験をきっかけに発症することもありますが、決定的な原因は現在分かっていません。
しかし、不安や恐怖などの感情・情動に深く関わるとされる扁桃体という脳の部位が興奮することで予期不安が引き起こされるというメカニズムが起こっていることが分かりつつあります。
(関連記事:不安、恐怖が起こる脳のメカニズム~どうやったら治るの?治療法まで~)
扁桃体が興奮していくプロセスにはセロトニンという脳内神経伝達物質が関係しており、後述する薬物療法ではこのセロトニンに作用する薬を使って治療を進めていくことがひとつの有力な選択肢となります。
社会不安障害を発症しやすい年代など
10代半ばで発症することが多く、25歳以上で発症することは非常に少ないと言われています。対人関係や社会的役割が常に変化する現代社会ならではのストレスによって、成人以降に発症するケースもあります。
男女での差は特にみられないとされていますが、受診するのは男性のほうが多いという報告もあります。
10代半ばという比較的早い段階で発症することが多く、治療を行わない限り回復することも少ないため、性格や気質の問題と思っている方も多いです。
そのせいで、病院を受診することもなくつらい状態で耐えている方が大半なのが実情です。社会生活においてストレスも増えがちになりうつ病を併発することも珍しくありません。
社会不安障害の治療方法とは
1.薬物療法
基本としてはセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質を調節していくことを目的とした処方を行っていきます。
うつ病の治療にも使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というセロトニンに作用する薬やセロトニンとノルアドレナリン両方に作用するSNRIといった薬が中心となります。
SSRIは従来の薬と比べて副作用も少ないため、長い期間でも服用しやすい一方で、効果があらわれるまでに2週間から4週間と時間がかかります。
患者様の状況によっては、即効性のある抗不安薬を使用することもあります。
2.心理療法(認知行動療法)
薬物療法で強い不安感を軽減することと並行して、認知行動療法を中心とした心理療法も行われます。
目的は不安や恐怖が起こる場面に遭遇してもだいじょうぶという感覚を強めていくことと、「自分はダメな人間だ。」「恥をかいたら生きていけない。」「いつも人からバカにされている。」といったような極端に偏った物事の捉え方【認知の歪み】を矯正していくことです。
まずは、不安を感じる場面や状況で起こる息苦しさや動悸などへの対処法や身体をリラックスさせたり、今この瞬間に集中していく方法を練習していきます。
できるようになってきたら少しずつスモールステップで不安や恐怖がわいてくる場面に接していくことで「だいじょうぶ。」「なんとかできる。」といった感覚を養っていきます。【段階的暴露療法】
さらに合わせて「自分はいつも失敗する。」「うまくできなければ絶対バカにされる。」「ミスしたら取り返しがつかない。」などの偏った考えを、客観的かつ現実的に見直していく【認知再構成】も行うことで、本来必要のない自分への過剰なプレッシャーを和らげていきます。
社会不安障害の日常生活でのセルフケア法とは
1.規則正しい生活をする
脳もあくまで身体の一部。睡眠不足や生活リズムの不規則さは神経伝達物質の分泌にも影響を与えます。
決まった時間に寝るように心がけ、十分な睡眠時間を確保しましょう。
また、お風呂もシャワーで済ませずにゆっくりと湯船に浸かることも身体と心をリラックスさせるために大事なことです。
2.栄養バランスの取れた食事を取る
カップ麺やコンビニ弁当ばかりといった、栄養バランスの崩れた食事が続くことで脳を含めた身体の調子は落ちていきます。
一日三食、栄養バランスの取れた食事を取るように心がけましょう。
3.軽い運動を実践する
ウォーキングや軽いジョギングなどの軽い運動を行うことがおすすめです。軽い運動を行うことでセロトニンの分泌も促され、気分も軽くなっていきます。
また、朝日を浴びながら行えば、体内時計のリズムを整える効果もあります。
社会不安障害で悩む人へのサポートの仕方とは
前提としてこれまでと同じように普段通り接していくことが基本となります。
変に気を使っていることが伝わると余計なプレッシャーになってしまいます。
また、治療には時間がかかることも多いので、過度な期待を持たず、あせらないでじっくりと待つことも重要です。
良くならないからといって、自分を責めるようなことはご自身のメンタル不調を招きますので避けるようにしましょう。
1.悩みを理解し、共感する
身近な相手にはつい「○○したらいいんじゃない?」とアドバイスをして問題解決してあげたくなってしまうもの。
しかし、社会不安障害はれっきとした疾患であり、アドバイスを実践することすら難しい状態です。
なんとかしてあげたいというお気持ちは素晴らしいものですが、まずは悩みをしっかり聴き、この人にとっては大変で重大なことなのだということを理解するのが大切です。
その上で、「そうだよね。人前に出るのは怖いよね。」など共感してあげられるとよいですね。
とはいえ、適切な共感を伝えるのは存外難しいものです。無理によくしてあげようとせず、ただ寄り添ってあげるという気持ちを大事にしていきましょう。
2.適切な治療を受けるように勧める
社会不安障害は治療可能な疾患です。信頼のおける病院・クリニックで適切な治療を受けることで改善が見込めます。
治療が遅れることで病状も悪化し、社会への不適応も進行してしまいます。
性格だからしょうがないと一人で抱え込んでしまう方も少なくありませんので、早期に受診してもらえるように勧めることは非常に重要です。
社会不安障害を理解して治療しよう
社会不安障害は本人の性格や資質の問題ではなく疾患です。そのままにしておくと社会的機能が低下し、QOLの低下にとどまらず、仕事面や生活面での実害も大きくなっていきますので早期に専門医への受診をすることを第一としてください。
薬物療法と心理療法の両輪によって症状は回復し、より自由度の高い充実した人生を送れるようになっていきます。
患者様ご自身はもちろん、ご家族やパートナーの方も病院・クリニックでの治療をまだされていないようでしたら、前向きに検討されることをおすすめします。
症状に左右されない、より生き生きとした生活をご希望の方は、ぜひ一度ベスリクリニックにご相談ください。