不安、恐怖が起こる脳のメカニズム
~どうやったら治るの?治療法まで~

メンタル不調は扁桃体が関係している

自分らしく生きたい、働きたい・・・でもうまくいかない…不安や恐怖で上手く動けない…なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
それはズバリ!「扁桃体(へんとうたい)」が過剰反応しているからです!

扁桃体

扁桃体とは、脳内の情動の中枢のことです。そこが過剰反応していると、理性ではこうなりたいと思っていても、感情が邪魔をしてしまうのです。当院では、扁桃体の感受性と連動する診断テストを行っていただき数値化することで、うつやメンタル不調を作っている根本的な原因を明確にし、改善するためのトレーニングを行います。トレーニングをすることで自分で扁桃体の過剰反応を抑えて不安や恐怖感を低減することが出来ます。

不安・恐怖の歴史

何十万年という人類の長い歴史のほぼ全体が、猛獣に襲われるか、敵に殺されるか、感染症や暑さ寒さや飢えで死ぬか・・・という過酷な環境下で生き延びなければなりませんでした。

人間の最大の本能は「生存本能」です。人は、不安や恐怖という感情を持つことで危険なものにいち早く気づく注意力を発達させ、DNAに刻んで遺伝によって受け継いでいくことで進化してきました。

本来ならば生存に有利なはずの不安や恐怖。現代社会においてはその対象が、仕事の不満、人間関係の居心地の悪さ、老後の不安、連日報道される暗いニュースといったネガティブなことに置き換わり、その結果、うつやメンタル不調といった心の病気が多く作り出されてしまいました。

不安や恐怖が起こる仕組み

なぜ不安や恐怖という感情が沸き起こるのか、その仕組みについて脳科学的なお話しをします。

視覚、聴覚などの感覚器が受け取った情報は、物事を判断する理性の脳である大脳皮質よりも先に情動の脳である扁桃体に届きます。情動とは、怒り、悲しみ、恐れ、喜びといった快・不快の強い感情(一次的情動)で、行動や表情の変化や自律神経系の身体反応を伴います。例えば、怒りで血圧が上がり顔が真っ赤になるとか、恐怖で身体が震え顔が真っ青になる、といったことです。

扁桃体は、安心・安全を最優先とする“危険の判定員”と言われており、扁桃体が興奮することによって一次的情動反応を湧き起こして危険を知らせ、無意識に闘う、逃げる、すくむといった行動を瞬時にとらせます。大脳皮質は、不安や恐怖の情動をコントロールし、過去の経験や学習の記憶から、その情報が本当に危険であるかどうかを判断し、当惑、嫉妬、罪悪感などの感情(二次的情動)を作り出します。

意識に上がってくる感情の前に、扁桃体に基づく無意識の「予期感情」というものが不安・恐怖の正体なのです。

メンタル不調の原因は大きく2つ

日常的に積み重なった慢性的なストレスがうつやメンタルの不調を作り出すことは容易に想像できますが、これらを改善したいと思った時、根本的な原因に対して働きかけないと、また同じことを繰り返す可能性があります。マイナスの「予期感情」が出てくる原因は大きく2つあります。

1) 周りの目を非常に怖がる感受性を持っていること

扁桃体には相手の顔表情に反応する細胞が多数存在し、これが相手の表情に敏感に反応するのです。脳は機能特性上、危険なものや不快なものに真っ先に注意を向けるようにできています。扁桃体は、穏やかな表情にはあまり反応しないのですが、恐怖や怒りの表情に対して強く活性化することが明らかになっています。扁桃体が活性化して暴走しだすと感情のコントロールができなくなります。

2) 声、音、光、匂い、身振り手振りといった、さまざまな非言語信号に過剰に反応してしまう身体違和感や身体緊張を持っていること

身体違和感や身体緊張の強い人は、相手の表情が怖く見えるという脳の特性があります。脳内で勝手に作られた「怖い表情のイメージ」に扁桃体が過剰に反応して「怖い」という感情を作り出すのです。こうなると、周りの人に気軽に話せない、頼めない、断れない、本音で関わることができないといったことが起こり、仕事を一人で抱え込むようになり、人にも相談できず、夜眠れなくなり、やがて体調を崩してしまうのです。

このように、うつやメンタル不調の方は、相手の顔表情に強い恐怖を感じ、身体違和感や身体緊張が強くなります。逆に、緊張が緩んで身体良好感に変わると、相手のことを必要以上に怖く感じなくなり、言いたいことが言えるようになっていくのです。

このようなお困りごとはありませんか?

1) 不安障害

人前で注目が集まる状況で強い不安を感じて、緊張、赤面、発汗、どもりなどの症状がでてしまう「社交不安障害」の方、日常生活全般において漠然とした不安や心配を持ち続けて、涙、発汗、手足の震え、胃腸障害、頭痛、肩凝りなどの身体症状や精神症状に現れる「全般性不安障害」の方などは、社会生活の刺激によって扁桃体が過剰に反応していると考えられます。

CASE「周りの目が気になって仕事に集中できない」30代男性 IT系会社員

仕事で大きなミスをしてしまったことをキッカケに周りの目がとても気になるようになった。 周りからは「気にすることない」と言われたが、誰かが話していると「自分の陰口なのではないか」「また失敗したらどうしよう」「みんな本当は馬鹿にしているのではないか」といった不安感が強くなって仕事に集中できなくなった。 不安感をなくしたい、周りの目を気にしないようにしたい、という思いで当院を受診。薬は最小限に抑えたいという希望があったため扁桃体にアプローチする心理療法を開始した。最初は辛い時に薬を飲んでいたが、徐々に自分で不安をコントロールできるようになっていった。1か月後には不安感も治まり元のように仕事に集中できるようになった。

2) 適応障害

周囲へ適応できなくて不安感や恐怖感などが高い状態が続くと、生命を維持するために重要な脳幹部の機能が障害されて、動悸、過呼吸、頻脈、めまい、発汗、ふるえ、吐き気などの強い恐怖感を伴う発作が出現します。それによって扁桃体が過剰に反応することで強い予期不安が生じることで悪循環に陥っていきます。

CASE「会社に行こうとすると吐き気が出る」20代男性 コンサルティング会社員

新卒でコンサルティング会社に入社。熱意をもってい仕事をしていたが、日々の強いプレッシャーから出勤時にめまいや吐き気などの身体症状が出現。そのうち会社に行こうとするだけで強い吐き気に襲われるようになり、当院受診。診察の結果1か月の短期休職となった。治療は順調に進んだが、いざ人事面談のための出社しようとしたら、会社の最寄り駅で吐き気に襲われた。特定場面の身体症状を改善する目的で扁桃体にアプローチをする心理療法を開始。2週間トレーニングをすると何事もなく出社できるようになった。

3) 発達障害グレーゾーン

発達障がい傾向をお持ちの、いわゆるグレーゾーンの方は、感情を抑えがちで自己表現が苦手、そして自己否定感が強い傾向があります。人の顔色ばかりを伺っていると、不安やパニックが強くなり、自分はダメだという思いが強くなります。扁桃体は人の表情に強く反応するのですが、グレーゾーンの方は、扁桃体の感受性が過敏で興奮しやすいという問題がありますので、扁桃体を鎮静化し安定させることが必要になります。

CASE「もしかしてADHD?」20代女性 会社員営業担当

9月に人員が移動し、仕事量が増加。それに伴ってスケジュールの抜け漏れ、細かい書類のミスなどが頻発するようになった。ふとTwitterでADHDの記事を見つけ「私ってもしかしてADHD?」と思い当院を受診した。 幼少期からADHDの症状が持続している様子は見られず、環境やストレスによる一過性の症状であると考えられた。そのため、脳を整えるTMS、仕事を効率的にこなすためのビジネストレーニング、感情を上手くコントロールするために扁桃体トレーニングを受診した。扁桃体の興奮が抑えられた結果、以前よりも物事をクリアに考えることが出来るようになった。ビジネストレーニングで得た知識も活用し成果を出せるようになった。

4) TMSとの併用に

理性の脳である前頭前野が、暴走しがちな扁桃体の興奮を抑えてくれるおかげで私たちは感情を上手くコントロールしています。しかし、ストレス状態が長く続くと、前頭前野の働きが低下して扁桃体を制御できなくなり、不安や恐怖の感情が強くなってしまいます。実際うつ病患者では、左側前頭前野の活動低下と右側扁桃体の過活動が認められます。左側前頭前野の賦活あるいは右側扁桃体の活動を抑制することで脳機能を改善に導く治療が経頭蓋磁気刺激法(TMS)です。TMS治療によって確かにうつ症状は改善されますが、うつになった根本的な原因を完全に取り除くことはできません.TMS治療後の再発防止のため、あるいはTMS治療と並行して扁桃体トレーニングを行うのも効果的です。パニックや不安が強い場合は、まずTMS治療で脳の状態を整えてから扁桃体トレーニングを行うのが理想的です。