新型コロナウイルス流行からの緊急事態宣言、それに伴いテレワーク・リモートワークが世界的に浸透しつつあります。
今日は緊急事態対応が終息し、テレワークで仕事をしていた人たちがまた通勤するようになると何が起きるか、それにどのように備えたらいいかについてお話しします。
テレワークでなくした、「通勤」の日常
リモートワークが始まった当初、患者さんからは「満員電車に乗らなくてラク」「意外と家でできることが分かった」など、比較的肯定的な意見が多く聞かれました。
そして今日現在でもまだそのように感じている方は多くいらっしゃると思います。
一方、リモートワークになってから聞かれた困り事の一つに、仕事とプライベートの区別がつかないというものがありました。
「職場でなら同僚と軽い談笑を交わすことで気分転換できたがそれができない」「家だと勤務時間が終わってからもPCが目につくところにあるから区切りのついていない業務が気になる」そんな悩みもちらほら聞かれるようになってきました。
そうした悩みが生じないよう密かに私たちのメンタルの正常化に貢献していたのが、職場への通勤だったのです。
確かに満員電車はパーソナルスペースが侵食されて気が滅入りますし、長時間の通勤は時間だけでなく気持ちの余裕も削っていきますから、あまり通勤というものに良いイメージを持っているかたはいないでしょう。
しかし、通勤行動にはメンタルに関する大事な身体の動きが含まれているのです。
その一つが、眼球運動です。
「通勤」がなくなると、「目」がなまける
私たちは業務に集中しているとき、目は「焦点視」という動き方をしています。
焦点視をしているときは、対象をじっと見つめて即座に反応できるだけでなく、脳もそれに対応して注意力や記憶力を高めています。
この脳神経回路の状態を実行系ネットワークといいます。
一方、通勤しているときは集中力を高めておく必要はありませんので、目は「周辺視」という動き方をしています。
周辺視をしているとき、脳は場の雰囲気を何となく掴んでいるだけで、外界の情報収集というよりは頭の中の整理や新たな発想のひらめきなどに使われています。
この状態をデフォルトモードネットワークといいます。
オフィスワークをしていたときには無意識に実行系ネットワークとデフォルトモードネットワークを切り替えることができていました。
それは、ディスプレイや対話の相手をしっかり見る焦点視と、通勤中の様子をぼんやり見る周辺視を使い分けることで、意識せず脳も切り替えることができていたからです。
しかし、テレワークをしていると、そのように目の使い方を切り替えることは難しくなります。
仕事でディスプレイを見た後は家事を始めたりテレビを見たりと、焦点視からまた別の焦点視へと対象を切り替えるだけで、同じ脳の使い方ばかりする生活になってしまうのです。
脳を切り替えるにはまず「目」から
脳は同じ神経回路の使い方を続けていると、バランスを取ろうとしてもう一方の使い方に強制的に切り替えるという性質があります。
集中したいときに限って頭がぼーっとしたり、逆にぼーっとしたいのに仕事のことが頭から離れなかったりするのは、この目と脳の性質が関連しているのです。
久々に職場に出勤できるようになると、このようなコロナボケした人たちがオフィスで多く見られると思われます。
会議や商談中に急に話が入ってこなくなったり、気軽な雑談中にも仕事や顧客のことばかり話したりしていると、全体のパフォーマンスも落ちて気分が落ち込んだり悲しくなったりしてしまいます。
そういったメンタル不調にならないためにも、今のうちから目のストレッチを取り入れるようにしましょう。
特にテレワーク時には、奥行きを見る「立体視」の機会が通勤時に比べて少なくなっています。
例えば、1時間に一度は窓から外を見て、頭を動かさずに遠くの景色(雲やビル)と近くのもの(窓ガラスや網戸)を何度か切り替えるストレッチがオススメです。
公認心理士 関本文博