心療内科の治療で重要な「扁桃体」とは?

日々、さまざまな状況に対して感情をいだくのも、またそれらにつき動かされて行動をおこすのも、すべては脳の反応によって引き起こされています。
職場では、人前での発言や発表など、対人場面における状況で過度の不安や緊張から恐怖心が生じたり、上司や同僚といった人間関係に不安を感じたり、周りの人の視線や動きが気になり仕事に集中できないといったことがあります。
職場に行こうとすると恐怖に駆られてパニック発作を起こし、電車に乗ることができずに通勤が困難になるケースもあります。
このような状態になると、社会生活に支障が出て本来の能力を発揮する機会が減り、自信も喪失してしまいます。
では、脳の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
数々のストレスに対して恐怖や不安の感情が発生する過程において、脳内の「扁桃体(へんとうたい)」という部分が重要な役割を果たすことがわかっています。

扁桃体の場所と役割

扁桃体は、脳の左右にある神経細胞の集まりで、アーモンドのような形をしていることから「扁桃(アーモンドの和名)」という名前がついたと言われています。
目の奥あたりに位置しています。
扁桃体は、情動と感情の処理や直観力、ストレス反応に重要な役割を果たしており、主に、「恐怖」「不安」「緊張」「怒り」などのネガティブな感情に関わっています。
扁桃体は、何かを見たり聞いたりしたとき、その情報の内容というよりも、それが自身の命に関わるものであるかを意識に上がる前に一瞬で評価します。
刺激に対して扁桃体が「不快」と判断すると、「視床下部」というところからストレスホルモンが分泌されます。
その結果、血圧や心拍数が上がったり、筋肉が緊張したりといった自律神経の反応(=交感神経の緊張)が起こり、それに伴って動悸や手足の震え、発汗、吐き気といった身体症状が現れます。
これが、いわゆる情動反応闘うか逃げるか反応)です。
そしてその後に「恐怖や不安」の感情が発生します。
交感神経が優位になり、身体の緊張が続くと扁桃体は人の表情をよりネガティブにとらえてしまいます。
そうなると周りの人すべてが自分にとって怖い存在に見え、仕事で問題が起こった時に、気軽に周りの人に相談できず、一人でその問題を抱え込んでしまってダウンするということになるのです。
さらに、他人が「恐がっている顔」や「怒っている顔」を見ると、扁桃体はより強く反応します。
他人がなにかを怖がっているということは、自分にも危険が迫っているととれますし、他人が怒っているということは、自分への攻撃となり危険そのものになります。
以上のことから、扁桃体の反応はスピード優先であり、危険だと判断した場合には、身体緊張とともに恐怖、不安、嫌悪感という感情をわき起こすことによって危険を回避し命を守る仕組みになっています。
恐怖や不安という感情を持つことは、本来ならば生存に有利なはずですが、現代社会においては、この感情がマイナスに働いてしまう場面が多くあります。
人前での発言、仕事への不満、人間関係の居心地の悪さ、家族の心配、老後の心配、メディアから次々と流れる暗いニュースなど・・・ただでさえ人は恐怖や不安に支配されやすいのです。

扁桃体の過剰な活動が引き起こす問題

たとえば、人前で発言する場面で、過度の不安や緊張で心拍数が上がり、話し方がぎこちなくなる、頭が真っ白になる、言おうとしたことが言えない、などが起こったとします。
脳は情動が大きく動いた時の記憶を強く刻み込むので、一度このような嫌な経験をすると、また同じことが起こるのではないかという恐怖心(予期不安)が生じてしまいます。

扁桃体が、「人前での発言」=「恐怖」=「緊急事態!」という連想ゲームを始めるのです。
理性の脳である前頭前野がそれを意識すると、さらに扁桃体を刺激し続けます。
扁桃体が過剰な活動をし続けると、些細なストレスに対しても過敏に反応してしまい、慢性ストレスとなって不安障害、うつ、パニック障害といった精神障害につながる恐れがあります。
さらに、ストレスホルモンであるコルチゾールやノルアドレナリンが分泌され続けると、免疫システムのバランスが崩れて身体と脳に炎症を起こし、免疫力が著しく低下します。
炎症で脳の神経細胞が傷害されると、海馬や前頭前野の重要な機能である記憶力、注意力、感情制御、思考、行動にも影響します。
ストレスは感情だけでなく、記憶や認知機能にも悪影響を及ぼすのです。
扁桃体が生み出す恐怖や不安という感情が、脳と身体を完全に支配してしまうことを「扁桃体ハイジャック」といいます。
突然泣き出してしまったり、衝動的に怒鳴ってしまったり、後で冷静に考えてみると「どうしてあの時あんな行動をとってしまったのだろうか・・・」というような時は、脳が扁桃体にハイジャックされて感情のコントロールが出来なくなってしまっているのです。

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心療内科で扁桃体の過剰な活動を抑制する治療法5選

扁桃体の過剰な活動を抑えて、不安や恐怖の感情をうまくコントロールするためにはどうしたらよいのでしょうか?
以下に扁桃体の過活動を抑制するために有効な治療法をご紹介します。

【1】薬物療法

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

神経終末からシナプス間隙へ放出されたセロトニンは主として神経終末に存在するセロトニントランスポーターを介して速やかに取り込まれて再利用されます。
この再取り込みを阻害すると、脳内で細胞外セロトニン濃度を増やすことができ、セロトニンの働きを増強することができます。
SSRIの作用機序は、「細胞外セロトニン濃度を増やすことによって扁桃体の過活動を抑制する」というもので、セロトニン濃度の低下によって生じる、抑うつ気分、全般的な不安、強迫性障害、パニック障害への効果が期待できます。
SSRIは少量から始めて少しずつ常用量にしていきます。
SSRIは効果が現れるまで時間がかかるので、効果が早く現れる抗不安薬を一緒に服用して治療することが一般的です。

【2】TMS治療

理性の脳である前頭前野が、暴走しがちな扁桃体の過活動を抑えてくれるおかげで私たちは感情を上手くコントロールしています。
しかし、ストレス状態が長く続くと、前頭前野の働きが低下して扁桃体を制御できなくなり、不安や恐怖の感情が強くなってしまいます。
実際、うつ病では、前頭前野にある「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」の活動低下と扁桃体の過活動が認められます。
背外側前頭前野を活性化すること、あるいは、扁桃体の過活動を抑制することで、これらの脳機能を改善に導く治療が「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」です。
TMS治療は、バランスを崩している脳部位に磁気刺激を与えることによってダイレクトに効果を引き出します。
前頭前野が活性化すると、扁桃体の過活動を抑制する力が回復し、意欲・判断力・思考力が向上します。

【3】ウォーキング

扁桃体の過剰な活動にすぐに対処したいときには、「体を大きく動かすこと」が効果的です。その中でも手軽に取り組むことができるのが「ウォーキング」です。
「いつものペースより気持ち速足かな?」くらいのペースで30分くらいのウォーキングによって、セロトニン、ドーパミン、βエンドルフィン、オキシトシンといった、気分をポジティブにする脳内ホルモンが増えることがわかっています。
さらに、ノルアドレナリン、アドレナリン、コルチゾールといった、ネガティブ感情や身体の不調の原因となるストレスホルモンの分泌を抑えることで、扁桃体の過活動を鎮静化させ、慢性ストレスによる不快な症状や気分の落ち込みに対して改善効果が期待できます。

【4】マインドフルネス

 マインドフルネスストレス低減法とは、マサチューセッツ大学の医学部が開発した宗教性を一切排除した瞑想法です。
ストレス軽減や集中力や創造性が上がる効果があり、アメリカの大企業や有名大学、世界中の各分野で活躍している著名人など、多くの人がこの瞑想法を取り入れています。
10分間を2か月間続けた結果、身体の不調が35%、心の不調が40%軽減されたという大規模な医学研究もあります。
マインドフルネスがストレスに効く理由の一つは、マインドワンダリングから抜け出すことによって扁桃体の暴走を抑えられることです。
マインドワンダリングとは「過去や未来のことを想像してあれこれと考えてしまうこと」で、過去を振り返って後悔したり怒りがこみ上げてきたり、未来を想像して不安になったり心配事が増えたりと、常に考え事をしていてそれがストレスになっているのです。
生活している時間の半分はこの状態にあるといわれています。
そこで、「今この瞬間」だけに意識を向けて瞑想することで、脳を休ませることができます。
脳をしっかりと休ませれば気分が落ち着き、マインドワンダリングから抜け出せます。
また、コルチゾールが減ることにより、海馬の神経細胞が5%増加したという研究もあり、記憶力や想像力などをつかさどる海馬の機能が上がることも分かっています。
まずは10分間でいいので、続けてみることをお勧めします。

【5】コーピング

コーピングとは、「ストレスに対して意図的に行動する対処法」を意味します。
自分のストレスを客観的に観察し、自分に合った対策を行います。
慢性ストレスから抜け出す方法として重要なことは扁桃体の暴走を抑えることです。
コーピングには扁桃体の暴走を止めることが期待できます。
あらかじめストレスに対してどんな気晴らしや対策を行えば効果的かをリストアップしておいて、ストレスを認知した場合に、ストレスに見合った手段を自分で選んで実行し、どれが効いたのか判断します。
この一連の「自分で考える」という作業が、思考や意欲や実行機能をつかさどる前頭前野を活性化することにつながり、前頭前野の本来の働きである「扁桃体の暴走を抑える」ことによって慢性的なストレスから解放されるのです。

当院での「扁桃体」の過活動を抑制する治療法とは?

当院で行っている「扁桃体トレーニング外来」では、扁桃体の過剰な反応が身体症状として表れることに着目し、安心した場の中で身体へアプローチすることによって扁桃体の興奮を鎮める方法をお伝えします。
気質(生まれ持った性質)的に扁桃体の感受性が高い方もいますが、仕事や人間関係で発生するストレスの本質を掘り下げていくと、「自分の感情をうまく表現できていない」ことにも原因があるといえます。
例えば、

・苦手なタイプの人と接するとパニックを起こしたり頭が真っ白になる
・相手に気を遣いすぎて、自分の言いたいことが言えない
・自分が他人からどのように見られているかを気にしすぎてしまう
・自分の限界がわからず、キャパオーバーの業務をひとりで抱え込んでしまう。
・自分に自信が持てない、自己肯定感が低く自分のことを無価値だと感じる

これらの項目に多く該当する方は、扁桃体が興奮しやすいといえそうです。
本トレーニングは、「理屈」だけで物事を片付けるのではなく、右脳的な直感やイメージの機能をカウンセリングの過程で使っていく「感情重視」の技法です。
右脳は、「感情の明確化」という共感を通して、心理的に安心感のある場所で作動します。
人は誰でも自分の問題は自分で解決したいと思っているはずです。

過去のつらい出来事や現在の否定的な状況を今後どのように捉えていくのかは自分自身の反応で変えることができ、それが「自己成長」でもあるのです。
扁桃体の過剰な活動で不安や恐怖のループに捉われてしまってお困りの方は、ベスリクリニックへご相談ください。

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